金山で暮らす人たちの声

どきどき金山

佐藤 文さん

出身地:山形県
家族構成:独身
職業:民泊・コミュニティカフェ経営
移住歴:3ヶ月 (2022.2現在)

「何を大切にして生きるか」から辿り着いた金山町

地方で面白いことをしたい!と移住を決断

佐藤さんは山形県出身。学生時代から演劇や、ファッション、アートに興味を持ち、18歳で東京にある演劇の研究所に合格し上京。その後は「日本を外から見て価値観の幅を広げたい」という想いからイギリスの美術大学で学び、現代美術で自己表現や哲学分野を追求してきた。卒業後は、ロンドンで日系の病院に数年勤める傍ら、「国際的な視点や枠組みから、多様な価値が共存する世界のあり方をもっと学びたい」と大学院に通いグローバルガバナンスを学んだ。

日本に戻り東京のシンクタンクで7年間務めた後、「このまま東京で働いていくことが本当に良い人生と言えるのだろうか」と疑問に感じたことがきっかけで移住を考え始めたという。
「私が本当に人生で目指したいところはどんなところだろうか、どんなことに価値を見出したいか。」
佐藤さんの答えは「自然と人間の在り方、人とのつながり、歴史と協調しながら生きる生き方をしたい」であった。
これは東京では実現できないと思い、長年勤めた会社を辞め地方への移住を決めた。

 

縁もゆかりもない「金山」に

移住先の選択で地元の山形県に戻ることも考えたが、地元だからこそ自分に期待されることがあったり、自分の行動に制限をかけそうだと思い、全く別の場所である「金山」を選んだ。「地元に帰りたい」より、「地方で自由に面白いことをしたい」という思いが強かったのだ。
家は空き家バンクで探し、たまたま見つけたこの場所で「面白いことができそう」と直感で思ったそう。実際、内見で訪れたときに「山と川の風景がきれいで、はじめて来た時もなんとなく帰ってきたような気がして、ふるさと感があった」と笑った。

移住して、ここで暮らして感じた「私のできることとやりたいこと」

仕事は「外に働きに出るよりも、自分自身で生活をする中で大切に感じることを基に、生産手段を持てたらいいな」と思い、ビジネスインキュベーション(※)の拠点づくりに挑戦することに。

「ここには小さな産業になりうるいろんな種が転がっているんですよね。地元の人たちは都市に価値を感じていて、みんなここには何もないというけれど、私は地方に価値を感じてここにきている。だからこそ地元の人が見えていないことを、都会の人の視点からできることがあるのではないかと思っているし、地元の人にもここの地域の良さを外の人の視点を通じて改めて感じてもらえたら。」と語ってくれた。

※インキュベーション:もともとは英語で「卵の孵化(ふか)」の意味。ビジネス用語としては創業や小さな生業の育成や支援、発展していく道筋をつくっていくこと。

空き家活用「地域の中と外をつなぐ場所」

築90年の空き家を活用し、2021年11月にコミュニティカフェ・民泊つむぎ(以下、「つむぎ」)をオープンした。地域の魅力を最大限に活かして地域の中と外をつなぎ、みんなの「やってみたかったこと」「楽しいこと」を実現するための場として活動を行う。

民泊やWi-Fi完備のコワーキング・スタディラウンジ、レンタルスペースの貸出を行う傍ら、コミュニティカフェでは日替わりで様々なイベントやサークルが開催されている。

例えば陶芸体験や編み物サークル、田舎暮らし体験に加えオンラインマーケティングやECサイト構築、イングリッシュディベートクラブなどスキルアップ講座も行われている。また18時からのバータイム利用が人気で、おつまみ、鍋料理を提供し、最近は常連さんが増えてきているそうだ。

「まだ途中段階ではありますが、都市に住んでいて地方のライフスタイルに可能性を感じている人が気軽に来て体験できる場所、そして地元の人も地元の良さを発掘したり、趣味や仕事のたねを持ち寄ってスキルシェアしながらコミュニティができていくといいなと思ってます。「おもしろい」と言って集まってくれる場ができればいろんな接点ができて、相乗効果が生まれるようなまさにこういう拠点を作りたかったんです。」
まずは地域のネットワークと地域の人から応援される関係を作り、それを軸に外の人を受け入れていく体制を整えていきたいと話してくれた。

応援してくれる「金山」の人たち

金山に移住して、「地域と共に歩む関係を作ること」を1番重視した。コミュニティカフェの講師は地元の人たちだ。
3年前にこの地域では水害により用水路が氾濫し多くの人が被災した。その復興の象徴として街の多くの商店がミニイベントやセミナーを主催する「町ゼミ」が始まった。商店同士のつながりが強いこともこの地域の特徴だ。佐藤さんはつむぎを営む傍ら、「金山のおもしろい」を伝えるWebサイトの立ち上げを行い、町ゼミを主催している各商店主さんにお店の成り立ちや仕事にかける想いをインタビューした。このつながりがきっかけとなって人脈が広がっていったという。

「なんとなくみんなが気にし合いながら生きている」この場所が今の私に合っている

金山町は田舎ならではの人のつながりが残されている。かつて宿場町だったことから人の出入りに慣れていて「来るもの拒まず」の空気感や気配が佐藤さんには合っていた。遠すぎることも近すぎることもなく、「なんとなくみんなが気にし合いながら生きている」ことはこの地域ならではだ。

畑を持っている人が多く、季節ごとに採れる野菜がもらえるそうだ。土と人間が手をかけて自然と生まれてくるものがそこにあり、循環の中で生きていることを実感できることが東京での暮らしとの違いだ。最低限の生活費が手に入れられたら生きていけて「自分が本当に大切だと感じられることを続けられる環境」を作っていた。

(下の写真:つむぎの周辺には”筋骨”とよばれる車では通ることができない昔ながらの生活道がたくさん残っており、地域のガイドによる筋骨めぐりも人気だ)

先入観にとらわれず生きる

自分の人生は行き当たりばったりと笑って話す佐藤さんだが、「その時その時で人生何を優先したいと思うかを大切にしたい」という姿には強い意志を感じる。
前職は東京で昼夜働き、今はコミュニティでの暮らしに重きをおいている。

その一見大きな転換と思えることにに対して、

「今までの経験を重視するよりも、その時々に自分が掘ってみたいことをやってみて、自分側の経験値を上げていくことが人間の個の成長に対しては重要。今、自分が大事だと思うことを大切に生きてほしいし、人間がこう生きたいなと思うことに素直にいきれる社会になってほしい。」そう話してくれた。

これからは、ここを訪れてくれる人に楽しんでもらえるコンテンツを作り、「田舎暮らしの価値」を届けることが目標だという。
佐藤さんの今後の活躍に目が離せない。

ライター プロフィール
mirairo

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下呂市の子育て世代の女性たちが「下呂の暮らしをもっと楽しく!」と 立ち上げたみらいろ。日々の暮らしの中にあるあったかい時間を多くの人に 届けていきたいと思います!暮らしに結びついた下呂の様々な情報を発信します。