小坂で暮らす人たちの声

どきどき小坂

関口 純一さん

東京都練馬区出身。2020年10月に下呂市小坂町に移住し、南ひだ森林組合で林業に従事している。

31歳で、大学での先端研究から飛騨の山仕事の道へ。エネルギー源を追い求め、次なる挑戦は木質バイオマス発電所づくり

「時期と場所が偶然重なったのがきっかけで下呂へ。

 

~下呂市に移住したきっかけを教えてください~

2020年8月に下呂市小坂町で開催された「林業就業支援講習」に参加したのがきっかけです。林業に就く事を視野に、2020年7月末で前職を辞めた直後でした。漠然と、関東圏を脱出して山の方で暮らそう、と考えており、当初は別の自治体で地域おこし協力隊として林業に従事するつもりでした。
まずはチェンソーをさわってみようと思い、厚労省が全国各地で開催している林業講習への参加を決め、発表されたスケジュールを見ていたところ「下呂市小坂町・8月・20日間の講習」の情報を見つけました。下呂って岐阜県なんだ、と初めて知りました。退職直後で時間が取れるタイミングだったので、すぐに申込みました。講習の1週間ほど前だったと記憶しています。

高山方面から下呂まで車で向かう道中の神秘的な光景が強く印象に残っています。雨が降っていて雷もゴロゴロ鳴っていて、空はどんより。森は薄暗く、霧が出ていて、なんとも言えない神秘的で怪しい光景に強く惹かれ「ここいいじゃん」と直感的に思いました。
講習がはじまって2日目には「ここに移住しようかな。ここ好きだな。」と周囲に伝えていたら、下呂市の移住担当者と面談することに。「仕事はどうしましょうか」との話にもなり、今の職場である南ひだ森林組合の方ともお話する機会をいただき、あれよあれよという間に、下呂に住む事が決まりました。
どうしても下呂だったわけではなく、講習の時期と場所が偶然重なったのが下呂だった、というのが移住のきっかけです。

その時に滞在していた民宿「おさかのおうち」のおかみさんにお世話になり、よくしてもらいました。移住した今も行きつけになっている「ひめしゃがの湯(天然炭酸泉を楽しめる日帰り入浴施設)」にも、この頃から通っていました。一人暮らしで家と職場の往復だと精神的にきつくなると思っていました。それ以外の場所で、人と顔を合わせて喋ることができると全然違うな、と。20日間の講習期間中に、関係性ができたことも移住には大きく影響しています。ひめしゃがの湯があるから、ここへの移住を決めた、とも言えます。実際に移住してからも、やっぱりこの場所があってよかったな、と思っています。

※写真は、関口さんが知人の山で伐倒させてもらったという木の切り株

「31歳で研究室から山仕事へ。興味は変わらずエネルギー。」

~移住前に不安に感じていたことなどあれば教えてください。~

もともとの性格なのか、危機感が薄いんですかね、まったく不安はありませんでした。関東で生まれ育ちましたが、数ヶ月だけ海外で生活したことがあって、そのときに環境の変化はむしろ好きかもと感じていました。それまでの生活で、都心部で暮らして経験する嫌な事はひとしきり経験したんじゃないかな、とも思っていて「種類は違えど、どこでどう生きてても辛さはある」と思ってましたし、まぁ死にはしないだろう、と。

あえて不安をあげれば「30歳過ぎで、いきなり山での現場仕事なんて大丈夫なのか?」といったことくらいでしょうか。前職は大学で物理の研究室で助手をしていたので、完全に畑違いの転職です。研究室から山仕事への転職について驚かれる事も多いのですが、自分の中で興味は変わっておらず、一貫して「エネルギー源」なんです。最先端の研究か山で木を切るかは全然違いますけど、動機はあまり変わらないんですよね。

大学での研究分野がエネルギーだったのもあり「木って勝手に充電してくれるバッテリーみたいだな」「原理的には下呂市全世帯のエネルギー需要と森林サイズの関係なら森林が十分再生するんじゃないか」「発電所ってどうやって立ち上げるんだろう」と考え続けています。もともと、林業に関心をもったのも、木質バイオマスのエネルギー利用って思ったよりも現実的かも、と考えた事にあります。エネルギーを知らないところから調達するよりも、できるだけ身近なところから得るほうが健全だと思います。 将来、木質バイオマスをつかった発電所をつくりたいと漠然とイメージしていて、とりあえず資源を採るところから体験してみたくて、思い切って林業の現場に飛び込みました。いざ働いてみると、実際に木を搬出するためには、木を切ることはもちろんのこと、木を運び出すための道や架線(※林業や作業道がない山の上から木を運ぶために用いるワイヤーロープなどのこと)が必要なことを知りました。山の奥や険しい斜面での作業であれば、その労力も難易度も更に増します。
林業を選んだのは、木を搬出する現場を知ることが目的で、それが今は一番大事だと思っています。念のため言っておくと、定年まで現場で働き続けたいとも思ってます。

「平日も休日も、行きつけのひめしゃがの湯へ。」

~日々の生活について教えてください。~

今は南ひだ森林組合で働かせてもらっています。現場からの距離にあわせて起床し、朝8時に現場に集合します。現場は定期的に変わり、遠ければ5時半頃に起きることもありますが、今は現場が近く朝も比較的時間の余裕があります。現場に集合した後、5人のチームで山に入り作業を開始します。立っている木を切り、トラックで搬出できるように造材(※伐採した木を適当な長さに切って木材にすること)して集めるといった作業をしています。

帰宅時間は比較的早く、家でご飯を食べ、夜6時頃にはひめしゃがの湯にいます。入浴後は、近所の人達と他愛もないおしゃべりをしたり本を読んだりしながら時間を過ごし、8時頃には帰宅。家に帰ってからは、友人と喋ったり勉強したりして、だいたい夜10時には寝ています。
休みは、日曜日と雨の日です。雨が降って急に仕事がなくなる日もあります。一人暮らしなので休日にまとめて家事をしたり、ランニングをしたり、勉強をしたりして過ごします。最近は、飛騨金山にあるボルダリングジムに出かけることもあります。出勤日と同じように6時頃に起きれば朝10時の回に間に合うので、名古屋か富山のミニシアターに出かけて一気に3本映画を見る、なんて過ごし方をすることもあります。そんな日でも夜には小坂に戻り、ひめしゃがの湯に浸かっています。

 

収入は、移住前と比べると減りましたが、支出はそれにあわせて調整しています。田舎だからといって物価が安いという感覚はありませんが、以前は週3くらい飲んでいたので、飲み代はかなり減りました。また本質的な生活は、関東にいた頃とほとんど変わりません。仕事帰りに車で10分ほどの距離にあるスーパーに立ち寄って買い物できますし、野菜はひめしゃがの湯で新鮮な地元のものを調達できます。移動に車は必須ですが、そのことは想定して移住時に購入したので、特に不便は感じていません。

困っている事は、現地に同世代の友人が少ないことです。そもそもあまり出会えてない気がしますし、そこは課題ですね。そもそもコロナ禍で飲み屋に行くということもないですし、そういったスポットも知りません。聞けばわかるんでしょうけれど、なかなかきっかけがないですね。その一方で、このエリアは人口が少ないからこそ、若い人が目立ちやすいのか、今回のインタビューのように声をかけてもらえる事もあり、ちょっと変わった繋がりも広がってもいます。いろんな場で露出を増やしながら、同年代の知り合いを増やしていければ、と思います。

本を読むペースも落ちました。関東にいた頃は、電車に乗っている時間に本を読んでいたのですが、電車に乗る機会がなくなったので、読書量は減りました。
ちょっとネガティブな話ですが、湿度が高い気がします。山の近さを重視して、日当たりがあまりよくない家を借りたのですが、湿度が高くカビが発生して厄介です。関東にいた頃には経験したこともなかったので、そのことには驚きました。あまり細かい事を気にしないタイプなので、生活に支障を感じるほどではありませんが。

「周囲からは、顔が柔らかくなった、体型が変わった、と。」

~下呂に移住して感じている変化はありますか?~

自覚はしてませんが、関東時代の友人や後輩とオンラインで話す中で「顔つきが柔らかくなった」「そんな笑顔になったの見たことなかったです」と言われる事が多いですかね。あまり実感はなく、自分の中では、歳を重ねたからでは?とも思っていますけどね。
一方、仕事が変わって心が楽になった、という感覚はあります。前職時代は、家に帰っても仕事のことを考える時間が多く、どこかに際限なき成長を目指さなくてはならない、といったプレッシャーがあったように思います。自分のやり方が未熟だったのだとも思います。それに比べて今は、オンオフの切り替えがうまくできています。
あと、ひめしゃがの湯で会うおじいちゃん達からは「体型がシュッとした」と声を掛けられます。毎日、山に入って身体を動かしているので、当たり前かもしれませんが、体型も変わりました。

発電所計画のため、さらに学びを深め、地域コミュニティに関心がある方と繋がりたい。

~将来計画など、あれば教えてください。~

移住する前から、発電所か燃料製造工場的なものをつくりたい、と考えてるんですよね。水・食・エネルギー源(熱源)があれば、人は生きていける、と思っています。その中でも自分自身はエネルギーに関心があります。自分の山を持ち、木を切り出し、エネルギーを生み出す、そんな事ができるかどうかわからないけれど、そこに向かっていこう、と考えています。再生可能エネルギーを使うことを考えているようなコミュニティと繋がって、といった事も考えています。世の中にいろんなアイディアは転がっていますが、どんな発電所がいいのか、今はまだわかりません。でもその実現に向けて、どうアクセスしていくのか、関わっていくのか、引っ張ってくるのか、人脈や実績みたいなものも含めて、どうにかしてつくっていきたいな、と思っています。就く職業を間違えてない?と言われることもありますが、この切り口のほうが楽しい、と思っていて、今は現場が大事だと思っています。

実際に発電所計画を実現させるためには、科学的な勉強はもちろんのこと、社会的な構造も学ぶ必要があると感じています。今も地道に勉強を続けていますが、改めて大学の価値を感じており、再度大学で学びたい、と考えています。2024年、飛騨高山に新しく開校が予定されている大学があるようなので、聴講生なら働きながらでもいけるかなと考えています。
他にも、中山間地域での成功事例を探したり、地域やコミュニティのあり方にも関心があります。地域で何かをするためにも、いろんな人とお話させてもらって、気が合った人と話ながら、どんどん計画をでかくしていく、そんなイメージを描いています。
こうしたインタビューの場に出させていただくことで、似たようなことに関心を持つ地域の方とも繋がれれば嬉しいです。

最後にメッセージ

とりあえず移住したいなら、現地に行くこと。それしかないと思います。他の移住候補地にも足を運びましたが、滞在期間が短かったこともあり、移住担当者や一部の人としか話す機会がなく、暮らすイメージができませんでした。
もしできるなら、長く現地に滞在する。長期滞在ができないなら、足繁く通ってみる。その中で、移住担当者とだけでなく、現地で暮らす人達と話して交流して、仲良くなることは大事だと思います。

ライター プロフィール
yuki

yuki

下呂市萩原出身。大学から地元を離れ、神戸、金沢、東京、ミャンマーでの生活を経て約18年振りに下呂へ。情報発信を通じて、下呂の魅力をお届けできればと思います。