発酵ごはん
食堂カフェ
萩原

〜この記事は2025年6月に取材し、執筆されたものです〜

 

 

下呂市萩原町 国道41号線沿い、洗練された佇まいに、木々や花々がそっと彩りを添える場所。そこが「発酵食堂 紡」。 店主の熊崎さんは、人生の節目を越えてなお、ひとつひとつの大切な「ご縁」を日々つむぎ続けている女性です。

発酵食堂 紡は、昨年(2024年)の10月にオープンしてはや8ヶ月。

たくさんの人が紡さんの幸せな発酵の魔法にかかっていますが、わたしもそのひとり。今回は、大好きな紡さんの取材をさせていただく機会に恵まれたので、満を持してみなさんへ紡の魅力をギュギュッとお届けさせていただきますね。

 

今回、わたしが紡さんへ向かったのは、6月の大雨が去ったあと。お天気は曇り空であいにくでしたが、雨上がりのしっとりした空気は、お店へ導くアプローチをまるで森の小径のように変えていました。晴れの日は、開放的な店内へ明るい日差しが差し込みとても素敵ですが、今回のように雨の日も緑がより美しく神秘的にみえる、そんな気持ちの良い空間です。お店の脇にはテラス席もあり、いろいろな場所で食事を楽しめるのも嬉しいところ。

 

入り口の扉を開くと、温かなライトの光とほのかな発酵の香りがふわり。訪れるたびに「ただいま」と言いたくなる不思議な安心感が広がります。

 

【目次】

 

人生を紡ぐ、食への思い

オーナーの熊崎さんは、これまでホテルや日帰り温泉施設の運営に携わり、お客様をもてなす仕事に邁進してこられました。忙しさの中でも「食べることの大切さ」を痛感し、三十年近く発酵食の力に魅せられていたそうです。

昔の日本人が当たり前に食べていた普通の食事。田舎の畑で採れる「味噌」「麹」「旬野菜」「豆」そこに少しの手間をかけ仕込めば、シンプルな味付けながら栄養も満点!しかも心も元気になる。「昔の人はいいものを食べていたんですね」と熊崎さん。派手ではなくとも昔からある日本の豊かな食事。「あったら喜ばれるはず」という小さな願いが、やがて人生の大きな転機となり、昨年10月、長年あたためた夢をついに形にされました。

 

 

実現した夢の空間「紡」

「ひと・もの・ことを優しいごはんで紡ぐ場所」という言葉を掲げる紡。店内は大きな窓から山の緑を取り込み、深いネイビーの天井と木製家具が落ち着きを醸します。テーブル席、座敷の小上がり、静かに過ごせるカウンターと、多様な居場所が用意され、お一人さまや友人同士、家族連れ、小さなお子さま連れまで安心です。

お店の入り口やキッチンカウンターにさりげなく並ぶ、京都の「たま茶」さんから仕入れているブレンドハーブティー。ハーブが大好きなたま茶の奥さんが「ひらめきでブレンドしている」とても爽やかで飲みやすいハーブティーだそう。そんなたくさんのひらめきブレンドの中から熊崎さんがお客さんに気軽に楽しんでもらえるように、さっぱりとマイルドなものをセレクトしたものを提供、販売されています。クセの強いハーブティがちょこっと苦手なわたしも、ランチ後に出していただいたハーブティーは、すっきりと飲みやすく爽やかにいただきました。

発酵だけでなく“暮らしを楽しむヒント”が紡の随所に散りばめられています。熊崎さんの紡いできた優しい「ひと・もの・こと」が楽しく息づいているそんな空間。

 

 

カラフルな紡ランチで満ちる体

先日、友人とランチタイムにいただいたのは〈紡ボウル〉と〈紡プレート〉。
紡ボウルは手作り麹納豆を中心に、蒸し・焼き・揚げ・生の野菜が彩りよく盛られ、温泉卵がやさしくとろけます。

友人はチキン南蛮のおかずが主役の紡プレートを選びましたが、野菜と発酵調味料が調和し、見た目より軽やか。優しい味付けで素材のおいしさも引き立ち「こんなに盛りだくさんなのに、食後も重くない♡」それが紡の発酵ごはんの嬉しいところ。

ご飯は長岡式酵素玄米というこだわりの炊き方で出されています。わたしが初めて紡さんへお邪魔した時、一番驚いて嬉しかったのも実は「長岡式酵素玄米」が出てきたから。とってももっちりとして香ばしく、普通の玄米のちょっと硬くて食べづらい感じがまったくなく、噛むほど甘みが広がります。

紡さんで使うお米は玄米も白米も『馬瀬ひかり』という地元で大切に育てられたお米。米麹は下呂の龍の瞳さんが作られている乾燥米麹と隣町高山市のよしま農園さんで作られた自然栽培米麹、2種を使用。そんな豊かな地元の素材と丁寧に発酵させた麹が出会うことで、滋味深いおいしさが宿ります。

 

〈紡ボウル〉 麹納豆で食べる 野菜とお米  1,320円(税込み)

 

〈紡プレート〉自家製の甘酒・発酵調味料を使い料理。野菜たっぷりの体に優しいご飯  1,650円(税込み)

 

午後のひとときのご褒美スイーツ

取材の日は、午後3時ごろに再訪し、「龍の瞳」の米麹で仕上げたジェラートを注文しました。ひと口含むとやさしい甘みがトロッと溶け、ほのかな麹の香りが後から追いかけてきます。合わせた米粉の抹茶マーブルシフォンは地元の飛騨小坂ファームさんによるもの。ふわりと軽い口どけで、アイスと交互に味わうと満ち足りた気持ちに。

他にもスイーツは「冷やしぜんざい」「グリークヨーグルト米麹グラノーラと自家製ジャム」「ヨーグルトぜんざい」など小腹が空いた時に食べても罪悪感のない優しいラインナップ。

 

スイーツ 飛騨小坂ファームと龍の瞳の出会い  660円(税込み)

 

総菜ケースは❝下呂のデパ地下❞

店内入り口を入って目の前にあるショーケースには、日替わりの発酵惣菜がずらり。キャロットラペ、もちもち高野豆腐、三色ナムル、おから煮、和風ポテサラなど、季節の食材を使った発酵惣菜は気軽にテイクアウトできます。

共働きも当たり前になりつつある今の時代、「仕事帰りの女性が夕飯に困らないように」と始められたそうです。いつでもお惣菜は家庭の食卓の強い味方。発酵の力で疲れた胃腸を休め、家族の食卓を支える田舎の数少ない“下呂のデパ地下”のひとつとして頼りにされています。

 

食材は道の駅などに仕入れに行くこともあれば、時には「野菜がたくさん採れたから」と近所の方が届けてくれることも。田舎ならではの「いただき物文化」の循環も紡で美味しい発酵の一皿に大変身。「これからはナスが増えそうですね」と熊崎さんは微笑みます。
発酵は微生物のリレー。人と人のつながりもまたリレー。紡のキッチンでは、それらが交差しあいながら新しい循環を生み出しています。

 

働くことはライフワーク

熊崎さんは「仕事はライフワーク。人生100年時代、まだまだこれから」と笑います。年齢を数字では語らずとも、豊かな人生経験をたずさえて新しい扉を開く姿に、同世代の女性たちは励まされ、「元気が出たわ」と声を掛けるそうです。熊崎さん自身もいろいろなことがある日々の中で、何が起こっても次の解決策を見つけていこうと前を向く。まさに発酵のように、環境が変わっても形を変え、次の旨味をつくり出す人だと熊崎さんとお話していて感じました。

 

発酵は目に見えないけれど、確かに私たちを支えてくれる力。人生をひとつひとつ大切に紡いでこられた熊崎さんの夢が「紡」という場所で発酵し、ここを訪れる私たちもまさに「喜びを発酵するひとときを過ごしている」そんな気持ちになりました。雨音が上がり、光が射し、緑が一層輝いた午後。発酵食堂 紡は、今日もまた誰かの「ただいま」と「いただきます」をやさしくお迎えしています。

 

ご案内

◉紡さん注文弁当はじまりました!1週間前までに要電話予約(数量・内容応相談)

◉2025年10月 to VILLAGEにて第2回 marche yuno マルシェ ユノが開催されます!キッチンカーや様々なお店が集う賑やかな一日。紡の発酵メニューも味わえます。

 

◇営業時間 ランチ 11:00〜14:00(L.O.13:30)/カフェ 14:00〜18:00
*夜営業・モーニングは計画中☆彡

◇定休日 毎週水曜・隔週火曜(詳しくはInstagram @hakkou.tumugu にて)

◇住所 下呂市萩原町上村663-6(Googleマップ

◇予約 ランチタイムは混み合うため電話予約が確実です(電話 0576-52-3883)

◇駐車場あり 台数に限りがあるため、可能な範囲で1グループ1台での乗り合わせのご協力をお願いします。