下呂市金山町には蛍石を採集できるツアーがある。(*1)その希少性から、ツアー開始直後から各種メディアでの紹介が相次ぎ、予約開始後、秒で完売する幻のツアーに。2025年にはアニメ「瑠璃の宝石」のロケ地となり、TBS「マツコの知らない世界」で紹介されると、2025年後半のツアーもあっという間に完売した。
ツアー開始から10年、年間三千人が参加する大人気ツアーへと成長。鉱物業界からも裾野を広げることを期待され、熱い視線が送られる。日本で唯一の蛍石探しツアー仕掛人・中島真一郎さんにお話を伺った。
(*1)蛍石探しツアー体験記
【目次】
蛍石との出会い
ブラックライトで光ることも知らなかった
メディアの反応が速かった
電車で行ける!子どもも参加できる!生活圏にある希少な鉱山
遠いところからお客さんを呼びたかった
人生の結晶は理科室
笹洞蛍石鉱山 HP

蛍石との出会い
中島さんは父親が始めた「街のでんきやさん」の二代目だ。高校卒業後、松下電器の全寮制の学校へ進学。朝6時から夜8時まで授業を受け、1年間で電気工事の資格を取得。マーケティングなど「街のでんきやさん」に必要な知識を学んだ。卒業後は2年間、他店で修行。21歳で地元へ戻り、30年に亘って、親子二代で家業に邁進してきた。
―30年間を振り返って「街のでんきやさん」のお仕事はいかがでしたか?
「父親が、水道工事も大工工事も、電気工事に付随する仕事は全部自分でやるというスタンスだったので、僕も水道の資格を取りました。電気工事や家電の修理は責任が重いです。僕は心配性なので、火事にならないかと心配し過ぎてしまって。この30年、業界は右肩下がりでしたが、お陰様で仕事は忙しかったです」
―蛍石との出会いは?
当時、地域の広報紙に記事を書いていました。ネタを考える中で、そういうえば鉱山があったなと。そこで笹洞鉱山に出向いてみると、蛍石が残っていて、拾えたんです。そこから笹洞鉱山のこと、蛍石のことを調べ始めました。それが2015年のことです。
ツアーの拠点となる菅田集(しゅう)学校の理科室。蛍石をはじめとした鉱物が所狭しと並ぶ。
ブラックライトで光ることも知らなかった
中島さんには並々ならぬ探求心がある。ツアーでは、笹洞鉱山の歴史や世界中の蛍石について解説し、マニアから初心者までを魅了する。ブラックライトの選び方を解説したYouTube動画は20分あるが、面白くて初心者でも見れてしまう。ツアーに参加したことのある方なら、中島さんの知識量には全員が感心するところだ。
―鉱物に関する知識はあったのですか?
全くありませんでした。蛍石がブラックライトで光ることも知りませんでした。ツアー開始当初のお客様は鉱物マニアの方ばかり。マニアの皆さんに教えてもらったこともたくさんあります。
―ツアーを始めたきっかけは?
2016年に下呂市でリクルート主催の大学生向けのワークショップがありました。大学生に地域の魅力をプレゼンをしてもらうコンペで、金山町の魅力を紹介してくれたグループが2位になりました。コンペの中で大学生に笹洞鉱山も紹介してもらったんです。すると、コンペ終了後にリクルートから「ツアーをやりませんか?」と声を掛けられました。
2025年に見つかった大きな単結晶。中島さんお気に入りの蛍石だ。
メディアの反応が速かった
リクルートは宿泊の予約等ができるWEBサイト「じゃらん」を運営している。2016年当時、アクティビティ部門を立ち上げたばかりで、遊び体験を募っていた。じゃらんに予約が入ると中島さんがツアーを実施した。
―笹洞鉱山の地主さんを始め、地域の方との調整はスムーズに進みましたか?
地主さんは「あんなところでも何かの役に立つなら」という感じで、快諾してくれました。当時の観光協会の会長も尽力してくれました。1年目、2年目の予約はポツポツという感じで、年間で30件くらいだっと思います。
―ツアーの地名度はどのように上がっていったのでしょうか?
メディアの反応が速かったんです。ツアーを始めたら、岐阜新聞・岐阜放送・中京テレビ・NHKなど、各種メディアが取り上げてくれました。Eテレの「天才てれびくん」でも紹介されました。
鉱物を紹介するカラフルなPOP。鉱物は手に取って鑑賞できる。
電車で行ける!子どもも参加できる!生活圏にある希少な鉱山
「笹洞蛍石鉱山ミネラルハンティングツアー」(ツアーの正式名称)の所要時間は3時間半で、4歳から参加可能だ。笹洞鉱山の最寄り駅はJR高山線の飛騨金山駅。名古屋駅から「特急ひだ」に乗ると、1時間20分程度で飛騨金山駅に到着する。飛騨金山駅からツアー集合場所の「菅田集学校」までは、デマンドバスまたはタクシーで移動可能(ただし、デマンドバス・タクシーともに日曜日は休業)。「菅田集学校」から山の入口までは車で行くことができる。
―ツアーの魅力は?
鉱山の跡地で、本当の宝探しができることです。ツアー費用以上の宝石が手に入るかもしれない。夢がありますよね。そして、電車で行ける、子どもも参加できる採石ツアーって、国内にほぼないんです。鉱山って奥地にあるので、お弁当持参で1日がかりだったり、二千メートル級の山で1週間がかりだったり。そして、ガイドツアーをやっているのは、笹洞鉱山の他には、岩手県久慈の瑪瑙(めのう)探しと、富山県・新潟県のヒスイ海岸くらいではないでしょうか。
―ツアーの安全性は?
笹洞鉱山に鉱毒はありません。ガイドの目の届く範囲で採石してもらい、保険にも加入しています。
仕入れた鉱物の販売を行っている。一つ一つ、中島さんの手作業だ。
遠いところからお客さんを呼びたかった
―ツアー開始から10年を振り返ると?
2016年・2017年の予約はポツポツで、年30件くらいでした。2018年は地域に大雨被害があってお休みしました。2020年~2022年はコロナでお休みしました。コロナ禍でお休みしている間にインスタのフォロワーが増え、2023年は即完売でした。
2023年までは、月~金は家業を、土日にガイドをしていました。ガイドを任せられる人材を養成し、2024年・2025年は平日にもツアーができるようにしました。2024年・2025年は年間で三千人程の方のツアーを実施しました。
―ツアーの狙いは?
遠いところからお客さんを呼びたかったんです。地元の桜を名所として広めることにも関わりましたが、桜のシーズンはとても短い。花火大会も一日で終わってしまう。何かないのかなと思っていて、蛍石に出会いました。
理科室の一角にて。世界各地の鉱物が並ぶ。
人生の結晶は理科室
中島さんの狙いは当たり、ツアー当初は関西や関東など、遠方からの参加者がほとんどだった。次第に近距離の参加者が増え、現在は愛知県からの参加者が一番多い。岐阜県内の参加者も2-3割程度まで増えた。鉱物好きな若い女性や石が好きな子どもを連れた家族など、参加者の裾野も広がった。
―この10年間、大変だったことは?
僕の休みがないことです。シーズン中は月に1日あるか、ないか、ですね。
―2026年シーズンの展望は?
2026年はまた僕がメインでガイドをします。なので、家業の比重を減らします。そして、理科室の隣のこの部屋を改装したいと考えています。カフェと事務所を併設し、蛍石ツアーの休憩所にもなるようにしたいと思っています。
―地域の子どもたちへ、メッセージをお願いします!
蛍石ツアーは楽しいと思うからできています。僕は何度ガイドしても楽しいです。ぜひ自分の好きなことを徹底して深堀りしてください。極めたこと×極めたことの掛け算で、希少価値の高いことができると思います。人がやってないことって、掛け算したら、結構あると思うんです。ぜひ、逆張りしてください!
菅田集学校のベランダにて。目の前に流れる菅田川では初夏に蛍が舞う。
菅田集学校の理科室には、中島さんが集めた鉱物の標本が所狭しと並ぶ。そこはまるで小さな博物館だ。物販もあり、蛍石を中心とした鉱物やグッズ等を購入することもできる。ツアーのお土産として配布している中島さんお手製の標本ラベルは、中島さんのおもてなしの心の表れだ。理科室隣の事務所スペースには、ラベル製作用のプリンターとカッターが置かれ、街のでんきやさんの知識が生かされていた。インタビューを終えて、理科室は中島さんの人生の結晶だと感じた。


オリジナルグッズや鉱物収集に便利な道具を販売している。
鉱物のレゴなど、蛍石にまつわるユニークな品々が並ぶ。
笹洞蛍石鉱山 HP
笹洞蛍石鉱山ミネラルハンティングガイドツアー YouTube













